技術資料

人体の行動識別が可能な腕時計型装置

前書き

多くの人々が日頃の健康管理に対して大きな関心を持っている。厚生労働省が策定した「健康日本21」においては健康を増進し疾病の発病を予防する一次予防が重視されており、日常の運動に対して目標を設定した上で目標に到達するための具体的な諸活動の成果を科学的に評価する必要があるとしている。この日常の運動を管理するためには人の生活活動を複雑な操作を必要とせず簡単にかつリアルタイムにチェックしデータ収集が可能な機器の開発が望まれている。運動をリアルタイムでチェックするためには、常に装着している必要があり、小型軽量化および装着性が重要なポイントとなる。本開発においては検出のためのセンサを最小化する事によりより腕時計感覚で装着が可能な運動識別装置の開発を行った。

腕時計型装置の特徴

腕時計型装置の開発にあたっては、装置をできるだけ小型化することが重要である。装置内部においてセンサの占める割合が非常に多いことから、センサの数をできる限り少なくすることが装置全体の小型化のポイントである。また、センサの数を少なくすることで消費電力の低下にもつながる。

1.ハード構成

腕時計型装置は、1軸加速度センサ、1軸角速度センサ、マイクロコンピュータ(16bit)、EEPROM(256kbit)、液晶表示、制御スイッチから構成されており、パソコンとの通信ポートを備えている。パソコンに転送することでより詳細にデータを分析することが可能である。

2.行動の識別方法

本来、人間の行動データを識別するためには、3方向の加速度センサと3方向の角速度センサを備えることが理想的であるが、それではスペースと電力を必要とするため小型化に向かない。そこで、最低限必要なセンサの数と軸方向にうちて検討を行った。
実験はFig.2に示す座標系を基準として、3方向の加速度センサと3方向の角速度センサを組み合わせて左腕の手首に装着し、運動状態を50m/min程度のゆっくりとしたウォーキングから140m/min程度のジョギングまで段階的に変化させ、50Hzでサンプリングを行った。

Fig.3は、40歳男性の測定結果からAxとωzの関係を示したものであるが、Axとωzの関係に特徴が見られる。Axは腕の鉛直方向を軸とした加速度であり、これはウォーキングまたはジョギング時に足を着地した時に発生する衝撃が足裏から身体を通じて伝わった加速度と考えられる。ωzはウォーキング時に腕を振る方向を軸とした角速度である。 Fig.3より、加速度(Ax)のレベルの違いによりウォーキングとジョギングの区別およびジョギングのレベルまで識別が可能であることが分かる。その上、角速度(ωz)のレベルによりウォーキングの速度まで識別が可能であることが分かった。

Fig.4に日常生活について測定した結果を示す。座標系はFig.2と同じである。Fig.4の結果からGxとωzの特徴からウォーキング、ジョギング、デスクワーク等は識別可能であることがわかった。しかし、レベル判定だけではウォーキングやジョギングとキャッチボール等の運動を識別することが困難であることを示している。そこでそれぞれの動きの周期性に着目し分析した結果、キャッチボールやテニスの様なスポーツは周期性がなく、ウォーキングやジョギングには周期性があることが確認できたことから、それぞれの状態を識別し10種類に動作に分類することが可能となった。この識別の結果として、純粋にウォーキング時のみ歩数カウントが可能となり、また消費カロリーの計算方法においては、動きの種別に応じての係数を変化させて計算を行うため精度が向上した。消費カロリーの計算には、日本アマチュアスポーツ協会のスポーツ医科学委員会のデータをもとに決定した。Table.1にこれら10種類の動作とその違いについて示してある。

Characterristics of Various types of human activities

運動識別 加速度 Ax 角速度 ωz 周期性
散歩 最低 あり
平常歩 あり
速歩 あり
急歩 あり
ジョギング あり
ランニング あり
座位作業 最低 不規則 なし
立位作業 不規則 なし
軽いスポーツ 不規則 なし
激しいスポーツ 不規則 なし

3.識別結果

Fig.5に腕時計型装置の歩数表示画面の例を示す。トータル歩数と3分毎のデータが時系列的にグラフ表示される。

Fig.6にパソコン上でのデータ表示例を示す。運動の割合が3分毎のヒストグラム時系列に表示される。

最後に

  • 腕において1方向の加速度、1方向の角速度そして周期性を分析する事により運動パターンの識別が可能である。
  • 10種類の運動の識別、歩数カウント、動きの種別に応じた消費カロリー計算が可能である。
  • 開発した装置は腕にフィットし通常の腕時計感覚で使用できることからエクササイズや日常の運動量の管理等に、大変有用であるといえる。